こんにちは! 理不尽な悲劇に抗う姿に魅せられたネイネイ(@NEYNEYx2)です。
今回は、呉勝浩さんの『スワン』を読みましたので、あらすじや感想・レビューをご紹介します。
乗り越えられない悲劇に向き合った、本作をあなたも堪能してみてはいかがでしょうか。
こんな人におすすめ
- 理不尽な悲劇に向き合った作品に興味のある人
- 単純な善と悪では語られない本を読んでみたいと思っている人
- いろいろと考えさせられる物語が好きな人
『スワン』呉勝浩【あらすじ&概要】
あらすじ
巨大ショッピングモールである、「湖名川シティガーデン・スワン」でおこった無差別銃撃事件。死者21名におよぶ悲劇の中で、犯人と接触しながら生き残った、女子高生の片岡いずみ。事件が終結して平穏がおとずれるかと思った矢先、同じく事件にあって生き残った、同級生の古舘小梢により告発文が週刊誌に暴露された。これにより、片岡いずみは被害者から一転して、非難の対象として吊し上げられてしまう。
そんなとき、彼女に一通の招待状が届く。集められたのは、テロ事件にあいながら、生き残った五人の関係者だった。目的は事件のさなか亡くなった吉村菊乃の死の真相を明らかにすることである。生き残った者が抱える秘密とは? そして事件のウラに隠された真実とは…。
おすすめポイント
銃撃テロ事件を生き残った者たちの抱える闇。また、被害者であるはずのものが、悪意に怯えながら苦悩に苛まれる。そんな状況でも、事件によって閉ざされた心をどうにか回復することはできないかと、事件の闇と向き合っていく物語。
主要な登場人物
- 片岡いずみ・・・16歳の女子高生で、古舘小梢とは同級生で、バレエ教室も同じである。スワンで事件にあいながらも生き残った一人で、お茶会のメンバー。
- 古舘小梢・・・身勝手でプライドが高いが、外面はかわいい。片岡いずみを、いじめていた過去も…。
- 波多野・・・お茶会のメンバー。皮肉なことばかりをいう男。
- 道山・・・お茶会のメンバー。スタジアムジャンパーを着た、強そうな体をした男性。
- 生田・・・お茶会のメンバー。パーマをあてた、ふくよかな体をした、おっとりした女性。
- 保坂伸継・・・お茶会のメンバー。つねに高圧的な態度をとっている、白髪の老人。
- 徳下宗平・・・浅羽法律事務所の弁護士。吉村秀樹の企画した「お茶会」の進行役をつとめる。
お茶会
吉村秀樹氏の依頼を受けた、弁護士の徳下宗平は「お茶会」なるものを開いた。秀樹は、母親である吉村菊乃をスワンでおきた無差別銃撃事件で亡くしていた。そこで、菊乃の死に隠された真実をあきらかにすべく依頼したようなのだ。
お茶会の主な内容は下記のようなものだ。
「お茶会」の内容
- 目的:スワン事件で殺害された、吉村秀樹の母親である吉村菊乃の死の真相をあきらかにすること。
- 参加者:スワンでおきた事件を生き延びた5人。
- ルール:事件がおきた1時間を10分単位の6つのパートにわけ、それぞれにおいて自身の行動を順番に語る。
- 開催日:毎週金曜日(計4回を予定)
お茶会には、事件にあいながら生き残った5名が参加していた。それぞれが会合に参加している理由も違っており、そこも本作の一つの重要な要素になっている。
そして、お茶会で参加者の行動が語られることで、次第に事件の隠されていた真実が浮かび上がっていくのだが…。
NO動画
スワンで事件をおこした犯人たちは、ウェブカメラ付きのゴーグルをつけて犯行をおこなっていた。そのカメラで、11時から正午までの1時間の犯行をリアルタイムで映像を録画しており、丹羽と大竹のものが6個ずつ、合計12個ある。この動画は、丹羽の「N」、大竹の「O」を用いて、NO動画と呼ばれている。
この現在は閲覧が制限されているNO動画を、お茶会の進行役である弁護士の徳下宗平は所持しており、何度も繰り返し観ているそうだ。そのことで、参加者の嘘を見抜くことができるというのだ。
徳下宗平は、ロボットのように淡々と常務を進めているようで、ときに鋭い視線をこちらに向けてくる。表情の変化がわかりにくい、ポーカーフェイスである。また、彼には仕事というほかに、このお茶会をひらいている理由がなにやらあるような雰囲気すら漂わせている。
菊乃の謎
吉村菊乃の死には謎がある。彼女は、犯行開始時刻にはスカイラウンジにいた。しかし、被害に会ったのは、なぜか一階のエレベーター乗り場だったのだ。また、犯人はエレベーターとフロアにまたがって倒れている彼女を撃っている。彼女の体の上半身がエレベーターの中、下半身がフロアにはみ出した状態で、後頭部と背中を銃撃されていたことが、スワンの防犯カメラより確認されている。
この状況からスカイラウンジからエレベーターで降りたときに倒れたのではなく、エレベーターに乗ろうとして倒れていたことになる。また、銃撃テロに気がついて逃げようとして撃たれたのではないこともわかります。
それでは、なぜそのような状況に陥ったのか。その状況は、お茶会の中で語られる、5名の行動が示されることで鮮明になっていく。それと共に、お茶会に参加している5名が抱えている闇も表面化することに…。
生き残った5名が抱えている闇と、菊乃の死の謎がうまくミックスされた構成になっており、そのことで物語のおもしろみと深みが増している。
感想・レビュー
ショッピングモール「スワン」でおきた銃乱射事件。悲惨な事件であればあるほど、周りの人びとは関心を示し、真相を知りたがり、さらには善と悪を決めたがる。ただ、事件に関係のないものが、白か黒かを決めることに意味があるのだろうか?また、真実は誰のためにあるのか?ということを深く考えさせられる。
報道やSNS上における表面上の情報だけでは、事件現場の緊迫した状況、刻々と変化する状況で迫られる選択、周りにいる人の表情といったものは、感じることはない。また、事件にあった当事者でさえ、自身の行動や選択に思い悩み、もう少し違った正解があったのではないか、と自問自答していく。
悲惨な事件により心に大きな傷を負いながらも、どうにか前に向かって進んでいこうとする姿には、読んでいるものを物語に引き込む力が、たしかにそこにはある。理不尽なことの多い今の時代において、この作品を通して自身のおこないを見つめ直したり、ほんの少し前に歩みだす勇気をわけてもらえたような気分にさせてもらえる。
まとめ
銃撃テロ事件に遭いながら生き残ったものが、理不尽な悲劇によっておった自身の心の傷と向き合いながら、前に進んでいくことを模索する物語。
この悲劇の事件に潜んでいる真実を、あなたも味わってはどうでしょうか。
それでは、まったです。 (‘◇’)ゞ
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