こんにちは! 裁かれることのない罪が感慨深かったネイネイ(@NEYNEYx2)です。
今回は、『屍人荘の殺人』と栄冠を争った第27回鮎川哲也賞優秀賞受賞作である、一本木透(@gouichi1)さんの『だから殺せなかった』を読みましたので、あらすじや感想・レビューをご紹介します。
ニュースでは語られない、事件のウラ側に潜む「罪」を見ることで、善悪の難しさを考えてみてはいかがでしょうか。
『だから殺せなかった』一本木透【あらすじ&概要】
あらすじ
「おれは首都圏連続殺人事件の真犯人だ」大手新聞社の社会部記者に宛てて届いた一通の手紙。そこには、首都圏全域を震撼させる無差別連続殺人に関して、犯人しか知り得ないであろう犯行の様子が詳述されていた。
送り主は「ワクチン」と名乗ったうえで、記者に対して紙上での公開討論を要求する。「おれの殺人を言葉で止めてみろ」。連続殺人犯と記者の対話は、始まるや否や苛烈な報道の波に呑み込まれていく。
果たして、絶対の自信を持つ犯人の目的は—劇場型犯罪と報道の行方を圧倒的なディテールで描出した、第27回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。(「BOOKデータベース」より)
おすすめポイント
太陽新聞の記者である 一本木透の語りと、私立大学にかよう江原陽一郎の語りが交互に繰り返されるかたちで、「家族」「言葉」「罪」「理由」「真実」の構成で物語は進んでいく。
紙面をにぎわせている連続殺人犯vs新聞記者の熱戦に、部外者であったはずの江原陽一郎もまきこまれていく。
同一犯
神奈川、埼玉、東京の三都県で発生していた殺人事件が、現場周辺に残されていた遺留品から同一人物のDNAが検出され、同一犯の可能性が高くなったとの情報をつかんだ。
それぞれの現場付近には、いずれも数本の同じ外国銘柄のタバコの吸い殻が落ちていた。鑑定の結果、吸い口に付着していた唾液から、同じ人物のデオキシリボ核酸(DNA)が検出された。
血液型もAB型と判明した。複数の殺害現場や周辺で、犯行に及ぶ直前まで犯人が付近でタバコを吸いながら被害者に接触する機会をうかがっていた可能性があり、「合同捜査本部は計画的犯行とみている」と報じた。
(P12より)
新聞記者は「サツ回り」と呼ばれることをし、警察の捜査関係者に情報の真偽を確認したうえで紙面に掲載している。
いっぽうでネットに拡散される「真偽のさだかでない情報」とが対象的に描かれている。
売れる新聞
著名人のゴシップ系ニュースを紙面でどう扱うか。編集局内では以前からこの議論がくすぶっていた。
(P15より)
読者を増やそうと思ったら、「世間の関心事」である記事を載せなければならず、「新聞」という媒体の立ち位置の難しさがうかがえる。
新聞や出版社業界が売り上げに苦しんでいる現状と、売り上げを伸ばすための会社の方針に現場の記者が困惑するのは、ビジネスとしての経営の大変さが顔をのぞかせている。
記者の慟哭(どうこく)
一本木透は20数年前におきた事件の取材において、ある選択をせまられた。記者としては特ダネを得たが、その反面で大切なものを失っている。
そんな実体験を「記者の慟哭」と題した企画で自身の「罪」をつづったのだ。
人はなぜ犯罪に至るのか。社会や組織、地域や集団に生きるゆえの葛藤や矛盾が潜んでいないか。ならば善悪の境界はどこにあるのがろう。純粋な善人や正直者が、複雑な人間社会や地域システムの中に知らず知らず取り込まれる。調和を重んじる「いい人」が、気がつけば「悪人」になっている。
そこに、わずかでも改悛や救いを見出せないか。「悪」とだけ切り捨てる報道ほど、無益で教訓を残さないものはない。善人だった個人が堕ちていく過程にこそ、学び取り、伝えなければならない核がある。
(P89より)
「仕事をとるか、家庭をとるか」という言葉があるが、その選択がまさにこの内容ではないだろうか。
人は常に様々ものを背負い生きていることを考えさせられるエピソードである。
ワクチン
一本木透あてに一通の手紙が届くのである。差出人は「ワクチン」と名乗る人物。それは首都圏3件の連続殺人事件の犯人からの手紙だった。
犯行声明を発信する方法は、どんなものが一番効果的かという内容であった。
案の定ネットには「なりすまし」があふれ始めた。ツイッター、ブログ、電子掲示板、ライン、公開メール配信……。今やだれでも好き勝手に言葉を発信・公開できる。だが、電磁記録は発信源を捜査で突き止められる。
(P106~107より)
世の中には便利に利用できるツールがあふれているが、信憑性の問題や一度配信されたら修正されない媒体がよいという。そこでワクチンが目をつけたのが「新聞紙面」だというのだ。
犯行メッセージは太陽新聞の一本木記者とだけするということと、犯行しか知り得ない「秘密の暴露」が添えられていた。
感想・レビュー
犯罪における被害者の視点、加害者の視点、それらに関わりを持った者の苦悩や葛藤、恐怖に憤りや怒りが、ただ単純に「正義と悪」に分類するのではなく、それぞれの心情をつづることで、善人であったはずの者が、いつのまにか悪人になってしまう現代社会の危うい一面が描かれている。
人生には様々な分岐点があり選択をせまられ、物事は善いことにも、悪いことにも変化していく。普段の生活の中でおとずれる行動が試されているのではないか、と感じられる。
殺人をおかした犯人だけでなく、人の不幸をネタに面白おかしく伝える者、助けを必要とする人を見て見ぬふりをする者、本作はそれらのことを読者になげかけ、人としての本質を問われているようでもある。
まとめ
報道では語られない、事件に潜む裁かれることのない「罪」について考えさせられる物語。
あなたもこの本で、善悪は紙一重だということを体感してみてはどうでしょうか。
それでは、まったです。 (‘◇’)ゞ
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